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【FILTOMクリスマスコラム2021】「サンタクロースと花屋と猫」

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(今年はミニストーリーです)

 

どこにでもある街の交差点の古いおもちゃ屋で、その年老いた男性は考えていた。今年もクリスマスがやってくるが、おそらくお客さんはそう多くはない。去年は一昨年より少なかったし、今年はもっと少ないだろう。数年前、近くにショッピングモールができたが、おそらく原因はそれだけではない。そろそろ店を畳んだ方が経済的には良さそうだが、しかしそれでは本来の仕事を投げ出すことになる。なぜ私はサンタクロースなどという仕事を引き受けたのだろうか。

 

そう考えていると一人の若い男性が入ってきた。彼は私を一瞥すると用は無いかのように背中を向け、うろうろ店内を歩き回り、2回ほど全ての商品を見回した後、足早に出て行った。

 

私は彼が探しているものを知っている。いま流行りのゲームが、ここならば売れ残っているのではないかと思ったのだろう。しかし私は「つながり」を持たない願いには応えることができない。すまぬ、若者よ。それがサンタクロースの使命なのだ。

 

そう考えていると小さな男の子を連れた女性が入ってきた。女性は眉間にしわを寄せながら「欲しいものを選びなさい。」と男の子に言った。男の子はとまどいながら選んでいたが、やがて女性の「早くしなさい。」という声で思い切るように近くのミニカーを手に取った。女性は「それでいいのね。」と足早にレジに向かい、商品とカードを出した。
「1200円になります。こちらへサインを。ペンはお持ちですか?」
「ペン、無いんですか?」
「ございますが、コロナなものですから。ではこちらを。」
ペンを差し出すと、女性は手早くサインをして、ペンを返した。それをそばの男の子はずっと目で追っていた。
「では、こちらが商品になります。それとこれは小さなプレゼントですが、どうぞ。」
私は男の子に透明の袋に包んだ新しいペンを渡した。
「あら、ありがとう。よかったわね。」
「これ、ママにあげるよ。」
「え?いいわよ。」
「いいって。」
男の子はそう言って、女性のカバンにペンを差し込んだ。
二人は楽しそうに店を出て行った。

 

私は、最初から男の子が欲しがっているものは分かっていた。しかし男の子は、自分は一体何が本当に欲しいのか、分かっていなかった。これは男の子が小さな子供だったからではない。実のところ、むしろ大人の方が、本当に欲しいものが何か分かっていないのだ。時代は変わり、情報があふれている。そのためか、人々はその中に欲しいものが必ずあると思うようになった。先ほどの若い男性のように。しかしそれは本当に欲しいものではない。小さな男の子は、母親がいつもペンを探しているのを気にしていた。彼が本当に欲しかったもの。それは母親に渡せるペンだった。

 

今回は素直な男の子だったからよかった。しかし私がどれほど努力してチャンスを作り出そうとも、本人につながりを求める意思がなければギフトは無意味だ。人と人のつながりを取り戻す千載一遇のチャンスを配るだと?誰がこんな途方もない仕事を考え出したのだ。やはり私の疲れの原因はショッピングモールではない。人のつながりへの無関心さだ。つながりを失えば、つながり同士の交わりも失われる。つながりは線なのだ。線は交わり、点を生む。その多くのつながりで生まれる無数の「交差点」こそが、この世界を支えているのだ。しかし、人々はもうそれを忘れつつある。サンタクロースの由来が「聖なる交差(Saint Cross)」だと知っている人も、もういない。

 

その古いおもちゃ屋の向かいの、どこにでもある小さな花屋の年老いた女性は考えていた。彼はいま一人。そして疲れている様子だ。これは千載一遇のチャンスではないのか。私がいま、この小さな花束を彼に持っていけば、彼は少しだけでも癒されるかもしれない。勇気を出すのよ。いまよ。いま目の前のドアのノブを開くだけでいいのよ。それから、道を渡って、彼の店のドアを開いて、彼に声をかけて、彼に花束を、、ああっ、だめよ、なんて長い道のりなの。そんなの、無理よ。ああ…。

 

その花屋の向かいの、どこにでもある赤いポストの上の年老いた猫は考えていた。女性よ、勇気を出すのだ。いまこの世界は存亡の危機にある。サンタクロースを救えるのはあなたしかいない。頑張れ。頑張ってくれ。私は視線を送ることしかできない。それが猫の使命なのだ。

 

真剣な目で訴えていた猫が大きくあくびをしたその時、女性は意を決して、花束をしっかと握り、ドアノブに手をかけ、雪の降る道路へ足を踏み出した。

 

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