【要点】
・企業とは社会の専門家集団である。
・社会的役割と社会的責任は表裏一体である。
・時間のかかる目標こそ地道に始めなければならない。
【企業で「海水の飲料水化」を目指す理由】
企業は生活の一部分を担う専門家集団です。専門家は日常の業務に取り組むうち、将来の社会がどのようになるのか、想いを馳せることが多くなります。将来のイメージを具体化できるかどうか。そこに専門家としての能力が表れます。これはつまり社会的役割と社会的責任が実は表裏一体であることを表しています。
FILTOMは社会の分離技術担当として、日頃は生活に必要な成分を提供しながら技術を磨き、そのノウハウをどのように「水不足解消」へつなげるか考えます。
【目標を「常温常圧海水淡水化」にする理由】
コラム「1トン10円の水を手に入れる」で紹介したとおり、現在有力視されている蒸留法とRO膜法には熱源や圧力源にかかるコスト(およそ1トン100円)が問題視されています。そのため世界中の研究機関が1トン10円を実現できるような低コスト造水技術を探すために様々な手法を試みています。その中で私たちが着目するのは、腎臓の脱塩システムです。
海水を塩辛く感じるのはナトリウムイオンのためですが、腎臓では毎日、180L以上という大量の水からナトリウムイオンを分離(脱塩)しています。その秘密は、リン脂質膜という水を強力に引き寄せる「超親水性の膜」と、特定のイオンだけを通す「イオンチャンネル」、そして分離速度・流速・圧力といった「分離条件を最適化」する高度なシステムです。
腎臓はこの3つの特殊性能によって常温常圧での脱塩を実現し、しかも100年以上も膜を交換せずに使い続けることができます。
常温常圧ということは、熱源と圧力源といった運転コストが少なくて済むということです。デメリットは処理速度が遅いことであり、メンテナンスコストなどを考慮すべきですが、安価で耐久性のある素材とシステムを開発することで、1トン10円を実現できるアイデアの一つだと考えています。
【常温常圧海水淡水化開発の現状】
腎臓のシステムを模倣するため、まず「超親水性の膜」としてセルロース膜を選びました。セルロースは親水性の高い水酸基を6つも持ち、水を引き寄せる力が最も強い素材の一つです。またセルロースは植物パプルの成分であり、非常に強い耐久性と、安価であることも選んだ理由の一つです。
現在のところ、このセルロース膜に数ナノメートルの小さな孔をあける工業的な製造技術がほぼ確立され、「分離条件を最適化」する装置の設計も終えています。これからはさらにそこに「イオンチャンネル」とおなじような性質を与える必要があります。
セルロース膜の小さな孔の表面は水酸基(OH)と呼ばれる分子で覆われています。この水酸基は性質を変えることが比較的容易な分子でもあります。この水酸基をさまざまな分子に置き換え、ナトリウムイオンを通しにくい性質、あるいは通しやすい性質を与えることによって、腎臓と似たような脱塩性能を持たせることができると考えています。
実現にはまだまだ時間がかかりますが、地道に進めてまいります。
FILTOM
2020/5/5
【地球のスキンケア】
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