FILTOM inc.

母なる温泉水

2018年3月1日、FILTOMの温泉水シリーズが進化しました。

 

「別府やまだ泉」を発売したのは2015年。別府温泉水はスキンケアに欠かせないミネラルとpHを見事に両立している。その驚きがきっかけでした。

 

現代女性の肌荒れの主な原因に、慢性的なカリウム不足と、強すぎる界面活性剤の使用があります。カリウムを高濃度に含み、弱アルカリ性で適度な洗浄力も持つやまだ泉は、予想通り、大好評となりました。

 

それから2年半。温泉水は知れば知るほど奥が深い。しかも、FILTOMのテーマである肌荒れと地球環境問題の共通点につながることが多い。

 

大地をめぐる栄養素と熱。その流れの一部である私たちが、その流れの一部である温泉に身を委ね、癒される。

 

温泉や、温泉を生み出す地球の循環について、もっと知りたくなりました。

 

調査にご協力いただいたのは、別府在住で博覧強記の写真家、藤田洋三氏。

 

別府でお聞きした藤田氏の不思議な言葉と共に、新商品「別府かんなわ温泉水シリーズ」をご紹介したいと思います。

 

C6理論 特別編「母なる温泉水」

 

【やまだ泉で分かったこと】

2015年のやまだ泉との出会いは衝撃でした。ナトリウム炭酸塩泉としての効果効能もさることながら、驚いたのはスキンケアに最適なpHと高いカリウム濃度を見事に両立していること

 

カリウムは細胞の電位差を生み出す最も基本的なエネルギー源ですが、汗で簡単に失われるため、現代女性は慢性的にカリウム不足です。

 


カリウム目標摂取量2,600 mg/日(女性)に対しいずれの年代も下回る。
(2015 年 国民健康・栄養調査結果および日本人食事摂取基準(厚生労働省)より)

 

さらにやまだ泉は適度なアルカリ性で、古いたんぱく質をほどよく洗浄する。強い界面活性剤とカリウム不足で疲れた現代女性の肌にとっては、これ以上ないスキンケアです。

 

温泉水はすごい。やまだ泉の商品化後も興味がやむことはありませんでした。

 

別府では、隣同士の旅館で源泉のpHがアルカリ性から酸性に変化することもあります。いわゆる、別府八湯です。

 

そして、その両方の温泉が分け隔てなく愛されています。アルカリ性の良さは上述の通りですが、酸性の温泉水は浴用だけでなく飲用にもなっています。

 

きっとそれぞれの泉質が、それぞれの具体的な役割を持っているに違いない。

 

とくに感心したのは、石鹸シャンプーで洗髪した時でした。酸性温泉水で流すだけで髪はさらさらに。考えてみれば当たり前ですが、クエン酸リンスがいらなかったのです。

 

【別府かんなわ温泉水】

それぞれの泉質の役割がつかめれば、温泉はもっと活かせるはず。私たちは、FILTOMのプロデューサーであるブンボに協力を依頼し、藤田洋三氏を紹介いただきました。藤田さんは土壁や鏝絵といった生活に根差した遺産の取材をライフワークとしている別府在住の写真家で、別府の生き字引とも言える方です。(プロフィール

 

 

藤田さんは散歩をするように鉄輪温泉街を案内してくれました。一遍上人の開創伝説を手始めに、蒸し湯跡から、現役の源泉をめぐりつつ、地獄蒸しなどの温泉文化を解説いただきました。

 

そして時折、独特の表現で不思議な言葉を投げかけてきます。

 

「温泉はなんも変わっとらん。人は変わるけどな。右往左往しとる。」

 

そしてご紹介いただいた4つの源泉のデータに、九州の温泉地のデータを無作為に追加し、pHと源泉温度とカリウム濃度の関係をグラフにしてみました。

 

 

そして選んだ源泉が、黒丸です。弱酸性で、カリウム濃度がひときわ高い。これを、やまだ泉のようにゆっくりと弱アルカリにするとどうなるだろうか。

 

さっそく膜分離した酸性温泉水をpH調整してみました。その結果、予想通りカリウム濃度は高いままでした。これは、やまだ泉が教えてくれたことです。膜分離によって微粒子が取り除かれた温泉水は、pHや温度をゆるやかに調整すれば沈殿が起きにくい。物質の結晶化(沈殿)は、常に核となる微粒子が必要だからです。(詳しくは下記解説参照)

その結果、最も高いカリウム濃度と適度な洗浄力という、酸性とアルカリ性の両方の良さを併せ持つ世界最高の温泉化粧水が手に入ることになります。

 

酸性温泉水の源泉をぜひ使わせていただきたい。さっそく藤田氏に協力を求めたところ、返ってきた言葉は、

 

「いきなり男から入るとうまくはいくまい。」

 

ブンボの女性スタッフを通じ、源泉を所有する旅館の女将さんへ繋いでいただきました。

 

私たちは女将さんへ、やや興奮気味に、調査で分かったことと、私たちの考える温泉水スキンケアについて説明させていただきました。作る商品は3つですが、pH調整という、源泉主としては受け入れがたいかもしれないアイデアも含みます。

 

 

1.酸性の温泉水は、源泉そのまま。カリウム補給ができる上に、洗顔後に肌に残った界面活性剤を中和してくれます。

 

2.pH調整したアルカリ性の温泉水は、カリウム補給に加え、古い角質やたんぱく質を穏やかに洗浄。さらに、においの元となる古い脂肪酸も中和します。

 

3.アルカリ性の温泉美容液は、ゲル状。携帯用としていつでもどこでも温泉を使用できるようになります。

 

ただ、もちろん、カリウム濃度だけで短絡的に温泉水を評価できるわけではなく、温泉水のミネラル構成は、その生成過程も結果も効果も複雑で、結局は私たちが肌で直接感じる評価がもっとも信頼がおけると言えます。おそらく泉質それぞれの存在理由と価値が、私たちの生体メカニズムの一部に関係している。それが今回、3種類の温泉水を商品化した理由です。

 

女将さんはしずかに聞き入ってくれた後、

 

「いいものができるといいですね。どうぞ使ってください。」

 

と頷いてくれました。

 

そして、別府かんなわ温泉水シリーズが完成しました。

 


(左から、酸性温泉水、アルカリ性温泉水、アルカリ性温泉美容液)

 

【母なる温泉水】

温泉水にはそれぞれ役割がある。その確信のもと、今回の新シリーズを開発しました。
目の前に現れる温泉水のデータは、その確信をさらに強めるばかり。
やや興奮気味に取り組む私に、藤田さんは時々こんな言葉をかけてくれました。

 

「面白いよね。だからぜひそれを届けてほしい。」

 

その言葉は、うれしい響きでしたが、同時に、やや肩透かしな印象もありました。
藤田さんは、他のことについては興味深く語ってくれましたが、温泉に限っては、多弁な私に対して、「だろう?だからそれを届けてほしい。」としか言ってくれませんでした。

 

そして帰りの車中、やや落ち着きを取り戻したところでふと気が付いたことがあり、少し冷や汗をかきました。

 

温泉水は母なる大地から湧き出るもの。

もしかしたら、私が繰り返した「温泉の役割を調べたい」という言葉は、藤田さんにとって「母親の役割を調べたい」と言われているようなものだったのかもしれない。

 

母親のやさしさに理屈はない。私たちはただ、身を委ねるのみ。
母親の役割を調べたいなどと、なんと身の程しらずな言い分だろう。

 

それが、藤田さんの真意であったかどうかは分かりません。
ただ、藤田さんの言葉からくる気づきであることは確かでした。

 

別府の旅館には、地熱を用いたオンドルもあります。
暖かい床に寝転んだ藤田さんの言葉も印象的でした。

 

「寝転ぶだけでなにか下から伝わってくるやろ?飽きないよね。」

 

尾池(工学博士)

次へ→「第5章 共生社会をつくる 5-1.肌家族」

【目次へ戻る】

 

 

 

藤田洋三(ふじた・ようぞう)プロフィール (元の場所に戻る
1950年大分県生まれ。写真家。雑誌「左官教室」に「鏝絵通信」を連載。ライフワークとして、全国の土壁、石灰窯、藁塚の撮影と取材を続けている。著書『近代建築史・ゲニウス・ロキ』(編著、産研出版、1993)、『消え行く左官職人の技・鏝絵』(小学館、1997)、「大分の昆虫」(私家版1994)、『小屋の力』(共著、ワールドフォトプレス、2001)、『鏝絵放浪記』(2001)『藁塚放浪記』(2005)『世間遺産放浪記』(2007、ともに石風社)がある。(石風社HPより転載)

元の場所に戻る

 

 

※「物質の結晶化(沈殿)」解説 (元の場所に戻る

温泉水のミネラル濃度は主に二つのメカニズムが関係していると考えられるため、結果的に生じる泉質では判断しにくい。二つのメカニズムとは、1.複合塩の形成と、2.硫酸塩の共沈である。

 

1.複合塩で代表的なものがミョウバン(硫酸カリウムアンモニウム)であり、溶解度が温度によって大きく変わる。ミョウバンは生活において利用価値が高く、古くからこの溶解度の変化を利用して温泉地で生産がおこなわれてきた(明礬温泉)。できるだけ高い温度の源泉を探し、それを冷却することで、大量のミョウバン結晶が得られる。

 

2.また、バリウムイオン、カリウムイオン、硫酸イオンが共存する場合、硫酸バリウムと共に、通常は沈殿しにくい硫酸カリウムも沈殿しやすくなる。これを共沈と呼ぶ。共沈は金属イオンの組み合わせで起き、沈殿しにくい有害な重金属イオンの除去に用いられる技術である。

 

こうした沈殿(結晶化)は、核となる微粒子を中心に起きることが知られ、核の表面に集中的に結晶化が進むが、核が無い場合、結晶は生じにくい。空気のきれいすぎる場所では吐く息が白くならないのも似た現象である。

 

同じように膜分離によって微粒子がほとんど取り除かれた温泉水の場合、pHや温度をゆるやかに変化させれば沈殿は生じにくくなる。

 

湯の華(ミョウバンの結晶)が漂う温泉水と、透明の温泉水を比べた場合、前者の方がカリウム濃度が高い(濃い)印象を受けるが、実際には透明の温泉水の方が高いことが多いのはこうしたメカニズムのためと考えられる。

 

ただし、カリウム濃度だけで短絡的に温泉水を評価できるわけではないことも、当然ではあるが付記しておきたい。温泉水のミネラル構成は、その生成過程も結果も効果も複雑であり、私たちが肌で直接感じる評価がもっとも信頼がおけると言える。おそらく泉質それぞれの存在理由と価値が、私たちの生体メカニズムの一部に関係している。それが今回、3種類の温泉水を商品化した理由である。

元の場所に戻る

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

TOP